今最も注目されている若手オーボエ奏者、黒木泰則。
瑞々しい音色と高いテクニックで定評のある黒木が待望のソロデビューアルバム「L'Arbre Noir」をリリースした。
指揮に千秋真一(ルー・マルレ・オーケストラ首席指揮者)、ヴァイオリンには三木清良(ノイエ・シュテルン・ゾリステン、BWV1060を除く)、フレンチ・バスーンにポール・デュボア(Croquis Quartet)など若手の新鋭との贅沢なコラボレーションでも注目されている。また、ピアノにはフランス在住のピアニスト、No Dameが参加している。(国籍など詳細は不明)
バロックに安住せずにレパートリーを広げつつある黒木の音楽観は今回のアルバムの選曲に現れており、超絶技巧のテクニックだけではなく、自分自身の音楽を表現したいという高い意欲が伺える。
バッハを中心に置きつつも、古典やオリジナル曲を緻密な構想でつなぎ、さりげなく聴かせる構成は秀逸。
いわゆるオーボエの定番曲に偏らずに楽器の多彩な魅力を伝える黒木の試みは成功したと言えるだろう。
クラシック入門者にも、器楽を知り尽くしたクラシックファンにも共に薦めたい一枚だ。
果敢な挑戦で新境地を掴んだ若き新鋭に今後とも期待したい。
アルバムの構成は定評のあるバッハが中心。カンタータからは21番「我は憂いに沈みぬ」よりシンフォニア、82番「我は満ちたれり」、147番「主よ、人の望みと喜びよ」と、美しい旋律で知られる曲をセレクト。優れたアーティキュレーションと繊細なフレージングは歌詞が伝わってくるようだ。透明感の中に憂いを帯びた音色と夢見るように上昇するオーボエは天上の世界をかいま見せてくれる。
「バッハのシシリアーノ」として知られるソナタ 変ホ長調 BWV1031では流麗な旋律の中の微妙な息遣いと揺らぎで人の世の哀切をにおわせた。オーボエ協奏曲(チェンバロ協奏曲 ヘ短調 BWV1056からの復元)の有名なラルゴではバッハの、祈りを捧げる人へのまなざしを思わせる暖かい音色を三木のヴァイオリンと共にゆったりと響かせた。
印象的な主題で始まるヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ニ短調 BWV1060では千秋が弾き振りで参加。コンチェルトの名にふさわしい緊張感のなか、ヴァイオリンは厚みのある深い音色で主張し、オーボエは音階を鮮やかに疾走しながら応じる。二人のソリストが豊かな音色で互いの旋律を追いかけ、寄り添い、折り重ね、生み出すハーモニーが美しい。黒木のソロは冴え渡り、千秋は緻密な構成の中から新鮮なバッハを描き出した。
モーツァルトの2曲で黒木は華やかな色彩感で現世の喜びを謳い、バロックとは違った魅力で聴かせた。アンダンテ・変ロ長調 K.315 (原曲:フルートと管弦楽のためのアンダンテ・ハ長調 K.315)では滑らかな旋律を流麗に鳴らし、曲の伸びやかさを余すところなく伝えた。オーボエ四重奏曲 へ長調 K.370では明るくクリアなロングトーンが印象的。アダージョでは永遠に続くような旋律を切なく歌い、全体の朗らかな響きを際立たせた。
オリジナルナンバーの2曲は黒木自身が作曲した作品。「想い出のBlue Green Days」はヴィヴァルディへのオマージュの中にユーモラスで都会的な香りを秘めた小品。デュボアとのアドリブのような軽快な掛け合いが絶妙。
最後の曲、「Bouquet de Muguet」はオルガンのような深い響きのピアノソロが、軽やかなフーガへと展開され、オーボエと溶け合うようなユニゾンで終わるノスタルジックな作品。甘過ぎない旋律とトレモロの響きがロマンチックな印象を残す。